Opus 16

歌い、奏で、語る。Declamazione 宮廷の愛の語り部
宇田川貞夫 カウンターテナー/ヴィオラ・ダ・ガンバ
高本一郎 キタローネ
2005年9月25日(日)午後3時開演 ¥4,000(自由席)
終了しました。

時代が移り変わって行くとき、芸術は先を争って先行しようとしますが、1600年頃のイタリアでは特にそれらが顕著に見られます。音楽の世界では、バロック時代が幕を開けるのです。我が国日本では「関ヶ原の合戦」があった頃のことです。ルネッサンスは人間が自分自身を主題とした時代といえますが、それに対してバロックは、デカルトの出現よって表されるように、人間は自分自身の原理(考えるという事)を自覚する時代になりました。Ogito, ergo sumすなわち(私−考える−自我)という図式の下に、人類の歴史が近代を迎えた新しい時代であるとも言えるのです。この時代の音楽家の中にあって、今日特に注目されているのがC.モンテヴェルディです。彼は、マドリガル集第5巻(1605年ヴェネツィア)の序文の中で「セコンダ・プラティカ」という新しい音楽理念を唱え、時代の幕開けを宣言しました。彼の理念とは、一言で言えば、

「音楽は語るもの」

詩人の魂から迸りでた「言葉」、それは作曲家の感性を刺激します。そして演奏家が、詩人の魂と作曲家の感性に肉薄していきます。そこで歌われるものは、

「恋の歌」

詩人がいて、美しい乙女に恋をします。しかし乙女は他の男性が好き、だから、詩人は悲嘆に暮れ、乙女に向かって「なんとむごい仕打ちをするのだ」と嘆く...。
これが定型の図式で、宮廷の愛の容なのです。「恋の歌」、そこではメロディーよりも歌詞がより大事にされ、言葉のリズムが音楽のリズムと完全に一つになっています。「音感」よりも「語感」と言い直すことも出来ます。また、この語り口を「デクラメーシォン(英)、デクラマシオン(仏)、デクラマツィオーネ(伊)」と云い、最近に至るまでのヨーロッパで一般的であった演説法、弁論術、演技法でした。因みに最後の偉大な「デクラメーシォン」の名人はJ.F.ケネディであったとも言われています。

今回の企画は、このモンテヴェルディと、彼の唱えた「セコンダ・プラティカ」の旗手たちである作曲家の作品の中から、「恋の歌」と題して、当時の歌曲集より選び出した「恋の歌」を中心に置き、軽やかなソロ・マドリガルや有節歌曲をその回りに集め、「宮廷の恋の嘆き」をより鮮烈にしてお聴きいただこうというものです。中では、「アマリッリ麗し」といった、いわゆるイタリア古典歌曲として知られている曲も演奏されます。また特別企画として、「アマリッリ麗し」、「ラメント・バス」、「ルッジェーロ・バス」に、バロック時代の代表的なソロ楽器であったヴィオラ・ダ・ガンバで即興演奏しようというものです。「アマリッリ麗し」は、当時の多くの作曲家によって器楽曲に編曲されました。それを今回は、演奏者自身が即興で演奏しようというのが試みです。

宇田川貞夫

◆プログラム◆
Diego Ortiz :
Recercada (Viola da gamba solo)
Giulio Caccini :
Amarilli mia bella "Le Nuove Musiche 1602"
Improvvisazione su "Amarilli mia bella"
Sfogava con le stelle (Declamazione)
Dolcissimo sospiro (Declamazione)
Io parto ,amati lumi
Occh'immortali
Francesco Ragi :
Ahi, fuggitivo ben
Aria sopra'l Basso di Ruggiero
con l'improvvisazione
sopra'l Basso di Ruggiero
Giovanni Ferice Sances :
Usupator tiranno
Aria sopra'l Basso di Lamento
con l'improvvisazione
sopra'l Basso di Lamento
Claudio Monteverdi :
Eri gia tutta mia
Ohime ch'io cado
Si dolce e'l tormento


宇田川貞夫 Sadao Udagawa

横浜生れ。ヴィオラ・ダ・ガンバを大橋敏成氏に師事。1974年、ベルギー・ブリュッセル王立音楽院に留学。ヴィオラ・ダ・ガンバをW.クイケン、室内楽をP・ドンブレヒトの両氏に師事。同音楽院に在学中、Ch.ケーニヒ氏の主催する「アンサンブル・ポリフォニー」のメンバーとして、ヨーロッパ各地でコンサート、テレビ、ラジオ等に出演。1978年同音楽院をディプロマを得て卒業。帰国後は、「バッハのガンバ・ソナタ全曲演奏会」等のリサイタル('85、'99)を始め、「バッソ・コンティヌオのリサイタル」、「みなと・よこはま・バロックシリ−ズ」、名古屋「ア−ベント・ムジ−ケン」等のシリーズ演奏会を企画するなどし、各地で多彩な演奏活動を展開している。また1986年より、「都留音楽祭」を企画制作。1997年より「札幌古楽の夏音楽祭」を主催し、音楽監督に就任、昨年第7回を開催した。また近年は、指揮者としての活動も始めており、1991年10月、静岡、栃木でのバッハ:ロ短調ミサ、12月モーツァルト:ピアノ協奏曲を始めとして、ルネッサンスから古典派までの作品に意欲的に取組んでいる。最近特に声楽指導者としての評価が高く、優れた若手声楽家を育てている。「語感と音感」というコンセプトによりバロック初期のモンテヴェルディから山田耕筰まで、幅広い視野を持って取り組んでいる。1995年よりセシル・レコードを発足させ、プロデューサーとして、優れた内容のCDを制作している。現在、東京古楽集団主宰、東京モンテヴェルディ合唱団指揮者、セシル・レコード・プロデューサー。


高本一郎 Ichiro Takamoto

幼少よりギターを始め「第3回読売ギターコンクール銀賞」など数々のコンクールに入賞。相愛大学音楽学部卒業後、フランス国立ストラスブール音楽院リュート科にて研鑽を積む。毎年欧州各地の音楽祭に参加し、2001年にはその演奏がフランス全土にTV中継された。ヨーロッパ・アジア・オセアニア各国でのリサイタルをはじめ、国内外の著名な音楽家との共演、CD録音、TV・ラジオ出演、CM音楽製作、演劇・狂言・朗読・パントマイム・講談の舞台に参加するなど、多彩な演奏活動を展開し、今夏にはスペインでのリサイタルを予定。「日本テレマン協会」ソリスト、「ダンスリー」メンバー。大阪音楽大学付属音楽院講師。2001年1stソロアルバム『 le luth 〜 天使のアリア・風の舞曲』をリリース。リュートを、今村泰典、H・スミス、E・フェレ、L・コンティニの各氏に師事。


企画制作:Poo 企画協力:東京古楽集団